「あのさ‥言いにくいんだけどね」
「じゃぁ言わないでください」
「それは嫌だな」
もう、聞いていたくないんだよ。
愛しい人とおんなじ声なんて。
「‥兄さんじゃなきゃダメ、かな」
「楓は楓。真樹さんは真樹さんですから」
「兄さんしか見えない?」
「きっと真樹さんを選んだら後悔しますよ、僕も真樹さんも」
早くこの電話を切ってしまいたかった。
「ごめん、困らせてるのわかってるんだ」
だって貴方にこんなにも似てるのよ。
傷つけたくなんて、ないじゃない。
似てるから、似てるからこそ真樹さんを見れないの。
楓にしか見えないの。
そんなの、ダメなのに‥ね。
「ごめんなさい、僕そんなに強くなれない」
「お前は強いよ」
どこが?
笑っていられるから?それは強さじゃないよ。
現実から逃げてるただの弱虫。
「真樹さん」
「なに?」
「困らせてるってわかってるなら‥言わないでほしかったです」
「うん」
懐かしさにしてしまいたくないの。
「楓じゃなきゃ‥嫌なんです、だから‥そんな事言わないでほしかった」
「‥拒まれたって、好きなんだよ」
「ごめんなさい、また電話します」
我慢できなくなって、僕は返事を聞かずに電話をきった。
[拒まれたって愛してやる]
拒むはずもないのに、君が言った台詞。
なんでそんな事言うの。
もう泣きたくなんてないのに、泣く資格なんてないのに。
最悪だと、最低だと罵ってくれた方がいいのに。
こんな曖昧な心のままじゃ‥笑えないよ。
ごめんなさい、真樹さんを傷つけた。
言わないでほしかった、なんて、言っちゃいけないない。
ただの甘えで、我が儘で、愛しい人の弟を傷つけた。
ごめんなさい。
でも‥楓しか好きになれない。
どんなに似てようが、楓じゃなきゃ嫌だ。
‥‥‥‥‥‥嫌なんだもん。
(これが精一杯の愛情)
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